|
北上川は岩手県岩手町を水源として、盛岡・花巻・北上・奥州・一関と穀倉地帯を通って石巻までの約200qを南下する、東北地方最大の一級河川である。この川は昔から水運が盛んで、江戸時代には年間20万石の米が石巻に下り、また塩・木綿・魚などが盛岡や水沢まで遡ったという。
その北上川の中下流域に米の集散地として栄えた町、宮城県登米(トメ)市がある。明治 4年の廃藩置県の際、明治政府は宮城県の北部と岩手県の南部を管轄する地域を登米(トヨマ)県とし、その中心都市登米(トメ)に県庁を置いた。そのため、登米には明治時代に建てられた官公庁の洋風建築が数多く残っていて、現在は観光登米の目玉となっている。特に「教育資料館」となっている旧登米尋常高等小学校は、映画やTVのロケに何回も使用されて有名であるが、町全体の落ち着いた佇まいは、訪れた人が心安らぐ雰囲気を持っている。
私は昭和56年〜61年と平成
4年〜 8年の二回に渡って計 9年間、製紙工場の従業員として石巻市に住んでいた。当時から登米の市街地の北上川沿いに二軒の有名な鰻屋があり、鰻を食べに車で片道
1時間ほどかけて何度も往復したことがある。最近、ネットの情報で 7月〜10月に登米で北上川の天然鰻が食べられることを知り、今回、その内の一軒「東海亭」を久し振りに訪れることにした。
12年振りの「東海亭」は昔から見慣れた古い店を閉め、約100m下流に山形県鶴岡市の築120年の米蔵を移築改造し、新店舗としてリニューアルしていた。聞くところによると、この10月で丸二年になるそうだ。周辺に漂う蒲焼きの匂いを懐かしみながら土手の階段を下りて店に入ろうとしたら、入口は川と反対側になっていたため、最初からマゴついてしまった。
黒い木材と白い漆喰のコントラストが鮮やかな外観の建物はカギ型で、北上川に沿った棟は新築部分で一階は厨房、二階が和風個室、そして川に直角の棟が移築部分で吹き抜けの客室になっている。一階の入口の脇には、鰻を捕るための大きな竹篭「鰻筒」が二つ置いてあり、「天然鰻入荷しています。是非、ご賞味下さい。」と書いた木の札も立てかけてあった。
大きなガラスの自動扉が開くと、奥にもう一つ扉があり、扉の上には恵比寿大黒の木製の大きなお面が客を迎えている。店内に一歩入ると、茶色の木の柱と床を強調した山小屋風になっていて、まるで洋風レストランのようだ。鰻屋とはとても感じられないインテリアに吃驚させられた。
訪れたのは土曜日の昼だったので客は少なくはなかったが、今回は天然鰻を食べたいと先に予約しておいたので、名前を告げると直ぐに二階の個室に案内された。個室は白壁に畳敷きの和風の部屋が大小4つあり、通されたのは4人用のテーブルが2セットある小部屋だった。
テーブルに座って一息つき、目を外に向けると滔々と流れる北上川が近くの土手越しに見えて、気持が良い。只、座った視線の高さが土手の上を歩く人とほぼ同じなので、目と目が合うと何か気恥ずかしくなる。
テーブルの上にはメニューと共に昔の登米のアルバムが置いてあった。メニューの表書きには『明治 8年、初代の利三郎が東海地方から職人を呼び寄せ、北上川流域に多く棲息していた鰻を使って鰻屋を始め、屋号を「東海亭」と名付けた。』旨の説明があり、この店の由来が分かった。
またアルバムには明治30年代に撮影された写真が多く貼ってあり、岩手県の水沢と宮城県石巻を結ぶ北上川の要衝の地として、米や絹の集散地として栄えた当時の登米の様子を窺うことが出来る。
鰻が焼けるまで、現在の北上川を窓の外に見ながら、過去の北上川をアルバムで偲ぶのも悪くない。古いキャビネ判を一枚々々子細に眺めていた時、早くも天然鰻の重セットが運ばれて来た。注文して15分程であろうか。
私は鰻を割き始めてから客の前に蒲焼きとして出される時間は、概ね40分と考えている。直ぐに出て来るのは途中まで作り置きしている可能性がある。只、今回は「昼に行く」と予約していたので、客を待たせないよう早めに作業を始めていたのかとも思い、気を取り直して鰻に箸をつけてみた。しかし、表面や鰻の端が硬くなっているのは、やはり作り置きしていた感じだ。【そこに私がこだわるのは、鰻は裂きから一貫して作業しないと独特の柔らかさが失われてしまうからである。】
更に、「東海亭」で養殖鰻を使ったものは、割いた鰻を二つに切って上半身と下半身がハッキリ分かった形で乗っている。ところが今回、初めて注文して出て来た天然鰻の鰻重は、比較的細かく切った蒲焼きが重全体に敷き詰められてはいるものの、身の大きさや厚さの違いから、適当な大きさの蒲焼きを寄せ集めて乗せたことが分かる。【大きさの違わない天然鰻を揃えるのは難しいからなのかも知れないが…。】
一口、鰻を食べてみると甘めのタレが久し振りの東海亭の味を思い出させてくれるが、トロッとした感じはない。逆に蒲焼きの表面がパリッとしている分だけ香ばしい。また皮と身の間の脂が溶けて口当たりが優しくなっている。只、養殖鰻は身と皮との間に余分な脂が溜まり易いと言われているので、念のため蒲焼きを裏返して見たが皮が黄色みを帯びていたので、間違いなく天然物だった。一言言わせて貰えれば、熱々の炊きたてご飯の上に乗せて欲しかった。
肝吸いは肝を小さく切ってある。醤油はやや強目か。他に酢の物とフルーツが付いて天然鰻の鰻重セットは
3,600円であった。
養殖の鰻重:1,700円、鰻重二段:2,750円、鰻重三段:3, 200円【「お客様のご要望で出来ました」とメニューに書いてあった。】と比較して、リーズナブルな価格かどうかは評価の別れるところかも知れない。 ※天然鰻は要予約。
|