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富士山は典型的なコニーデ型火山である。火口から噴出した溶岩が綺麗に堆積して、日本一美しい山となった。しかし、溶岩は水を溜めることが出来ないので、富士山の雪解け水は地中深く染み込み、80年近い歳月をかけて湧き水として出現する。 三島では、その湧き水を通した生け簀に、他の場所で養殖した鰻を2,3日入れておくと、味が格段に良くなると言われている。それは玄武岩の溶岩層を通過している間にバナジウムが多量に溶け込んでいるためだという説があって、富士山系の湧水はどうやら特別らしいことが近年知られてきた。
その三島市は人口11.4万人ほどであるが、鰻を食べさせる店は20軒近くあって、美味しい鰻を愛する客が多いことを物語っている。この地で評判が高くて有名なのが「桜家」である。以前から一度は行ってみたいと思っていたが、今回ようやく訪れる機会に恵まれた。
伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺方面に向かって最初の駅、三島広小路駅から50mほど先の踏切を渡って直ぐのところ、源兵衛川の脇に目指す店はあった。安政三年創業の「桜家」は薄茶色のモルタル二階建ての建物で、間口は白木組み、横の窓も太い白木格子が目立つ…、とここまで書かなくても店の前には多くの客が集まっているので、近くまで行けば直ぐに分かるし、店の前の歩道には大きく「うなぎ桜家」と書かれた白木の看板が立っている。
開店の11時を目指して行ったが、丁度、七五三に近い休日だったので三島大社周辺の道路が混んでいたため、目標時刻を少し過ぎてしまった。未だ11時15分なのに、店の前には既に十数人の人が並んでいる。先ずは店先に出ている紙に名前と人数を書いて、呼ばれるのを待つことにするが、守衛風の制服を着た男の人が手際よく客を捌いていた。開店したばかりにも係わらず、既に店内は満員なのかと不安になって店内を覗いたら、未だ々々空席がある。順番に客を案内しているところだと分かって、先ずは安心した。そして、しばらく待ったところで名前を呼ばれた。
店に入って左直ぐ手前の小上がりに案内され、お茶が出て絣姿の店員が注文を取りに来る。メニューを見ると、この「桜家」の鰻重は2,200円、2,800円、3,500円の3種類がある。今回は家族と一緒だったので先ずは様子見ということで、取り敢えず2,200円と2,800円の二種類を頼んだ。
注文するものが決まると、少し落ち着いて周囲を見回す余裕が出て来る。店内も外装と同じ色の壁と木でデザインされていて、間口が狭い割には奥が深く、正に「鰻の寝床」である。店の真ん中に奥に続く通路があり、左側は手前に小上がりが二つ、テーブルが4つ。右側はテーブルが2つあってその奥に帳場と調理場出入り口、そしてテーブルが2つ並んでいる。その奥には二階の座敷に上がる階段が見えた。両側の壁には三島を描いた浮世絵や由緒ありげな書が飾られている。また、目立つのは竹で編んだ大きなカゴ状の照明が丁度客席の上に二列に並んでいる。天井は板張りで、なかなか凝った作りである。
2,200円と2,800円の鰻重の蓋を取って二つを身較べた時、この「桜家」の鰻重のランク付けが分かった。蒲焼きの大きさが殆ど変わらず、蒲焼きの枚数が違うのだ。どうやら、鰻の大きさを一定にすることによって特定の客向けではなく、重に乗せる蒲焼きの枚数で加減しているらしい。【この件に関して確認していない。】これは同じ大きさの鰻を多数仕入れることが可能で、「桜家」のように、開店時間から客が群がり、切れ目なくテーブルが埋まる店としては、選択枝の一つと言えるのかとも思う。
唯、食べる前に気になることがあった。それは重の蓋を開けた時に目に入った蒲焼きの並べ方である。鰻重の蒲焼きは、開いた鰻を上下に切って上半身を客の手前に、下半身を重の奥側に置くというのが普通である。それは最初に脂の乗った上半身から食べ、動きの細かい鰻の尾の微妙な味は余韻を持たせて最後にするためだと、さる鰻屋の主人から聞いたことがあるからだ。鰻重の蓋には絵柄が描かれたものが多いのは、店員が絵柄の向きを客に合わせるだけで、蓋を取らなくても鰻の向きが分かるためだとも聞いた。しかし、上半身の蒲焼きは頭部の方(左側)が細く、下半身は尾の方(右側)が細くなっているので、そのように置くと長方形の重に収まりが良いこととも無関係ではないと思われる。
ところが、ここ「桜家」では、2,200円の鰻重の蒲焼きの置き方は、頭の方を左に向けた形で手前が下半身、奥が上半身に並べてある。また2,800円の鰻重では、頭の方を右に向けた形で手前が上半身、奥が下半身に並べてあり、左側に頭を下に向けた形で下半身が重ねられている。
どうやら、蒲焼きの置き方には、あまり気を遣っていないように思えた。【私が拘り過ぎているのかも知れないが…】
肝心の蒲焼きの味であるが、口に含むと地方の鰻屋にしては辛口系のタレが絡み、柔らかくて比較的さっぱりとした蒲焼きだった。秋口の鰻にしてはもう少し脂が乗っても良いのかとも思ったが、鰻自身がやや小振りだったせいなのかも知れない。バナジウムの効果については、確認出来なかった…。
後半に振りかけた山椒はキリッとした香りと辛さが新鮮に感じられた。また肝吸いは、やや薄口の味の中に柚子の香りが効いたキレの良い椀だった。
鰻屋では待つ時間よりも食べる時間の方が早い。家族と談笑しながらの食事であったが、鰻重がテーブルに並べられてから20分強で店を出た。店の前には我々が店に入った時よりも更にも増して、大勢の客の波が押し寄せていた。
三島を離れる車窓から、快晴の空に大きな富士山が迫っているのが見えた。
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